「Relay~杜の詩」
「桑田佳祐が神宮外苑再開発に反対を唱える歌」という見出しでよく紹介されるこの曲。確かに桑田さん自身、神宮の再開発には疑問を持っていますが、一口に「反対」と書かれたり、紹介される事は実は不本意だと思います。この歌の意図はご本人の口からも語られています。
桑田さんが「NHK MUSIC SPECIAL」で語っていたのですが、まずデビューした頃のサザンオールスターズは、学生だった事もあってボキャブラリーが少なく、また歌詞を届けようという意識も少なく、歌に乗れればそれで良いというような意識だったそうです。マネージャーからも、「海と砂と風ばっかりじゃないか。もっとメッセージ性のある歌詞はないのか?」と言われたほどでした。
しかし、時を経る事によって「サザンの歌は歌詞が良い」言われるようになり、そこから何を伝えようかという意識が芽ばえていったそうです。ただ、メッセージ性のある曲を書きたいと強く思うようになったのは、本当に最近の事だそうです。
そんな時に、多くの楽曲をレコーディングしてきた千駄ヶ谷のビクター・スタジオの目の前にある神宮の杜に開発計画があると知りました。自分の第二の故郷とも呼べる場所が、再開発されようとしていたのです。
坂本龍一さんが亡くなられた時、テレビの特集などを通じ、神宮の開発に反対していた事が報じられたのですが、そこから興味を持ち、反対&賛成、色々な人達の話を聞きました。ただ声高に「反対」と唱えるのではなく、なぜ、開発の必要があるのかというのも知っておかなければならないと思ったからです。
そんな中、いつの間にかその条例が変えられ、建物の高さも15メートル以内という規制が、180何メートルものビルが計画可能なまでに緩和されていた事などに、違和感を持ったりしました。
森が伐採されたりすることなどへの違和感を、多くの人間が持っているのは事実だと思うし、だったら「失うもの」はこれだけで、「得るもの」はこれだけといったことなどを、穏やかにコミュニケーション出来ないかと考えた。と桑田さんは語っています。
SNSの時代は、何かを発信すると「賛成or反対」どちら派に区分されてしまう事を憂いていました。白か黒か、0か100かの両極端ではなく、その中間を歌う事は出来ないのかと?
そこで参考にしたのが、The Beatlesの「Revolution」という曲です。
ベトナム戦争のまっただ中に作られた曲であり、各地では反対の暴動も起きていたと言います。のちに「イマジン」という曲を書いているように、もちろんジョン・レノンも戦争反対でした。しかしこの歌は戦争反対するには「革命」が必要と、暴動を起こしている人達への疑問も歌っています。
革命が必要だと君は言う
まぁ、そりゃあね
みんな世界を変えたいと思ってるよだけど破壊してでもやろうと言うなら
僕は仲間に入れないで
そして、戦争に反対するには暴力的な革命が必要という人達の言い分に対して、疑問形式で自分の違和感を歌っているのです。
この「Relay~杜の詩」にも疑問形の歌詞が多用されています。反対と言い切らず、疑問形式で停めている所に、「賛成or反対」「0か100か」にしたくない、桑田さんの思いが込められています。
なので「神宮が意見の再開発には疑問だが」「桑田佳祐が神宮外苑再開発に反対を唱える歌」=「反対派」と切り取られる事は不本意なのです。